東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)47号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の特許請求の範囲第一九番目の項)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告ら主張の審決取消事由の存否について判断する。
本願第一九番目の項に本件拒絶理由事項、すなわち「夫々が工具を支持している互いに離間して回転できる中間部分に噛み合い状態で歯車を受け入れる三本の液圧シリンダー」との記載があることは当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第六号証によれば、この記載は、「歯車がそれを中心として回転するよう設計された回転軸を持つ歯つき歯車から表面欠陥を除去する装置であつて、歯車の歯と噛み合う三つの回転工具と、」に続く文章であることが認められるところ、この文章中の「三本の液圧シリンダー」の前には、「夫々が工具を支持している」、「互いに離間して」、「回転でき」、「中間部分に噛み合い状態で歯車を受け入れる」と、一定の状態を説明する語が配置されており、そしてこれらの語にはいずれも主語は特に示されていないのであるから、これらの語はすべて「三本の液圧シリンダー」に係つて、それを説明している語であり、この文章が、三本の液圧シリンダーは、<1>それぞれ工具を支持していること、<2>互いに離間してあること、<3>回転できること、<4>中間部分に噛み合い状態で歯車を受け入れること、を意味するものであることは、文章の構成上動かし難いところであつて、この内の<3>の「回転できること」が、三本の液圧シリンダーに係らないで三つの回転工具に係ると解する余地は全くないと言わざるをえない。原告は、本願明細書の全文及び願書添付図面を検討すれば、本件拒絶理由事項の「回転でき」は、回転工具が回転できるように各液圧シリンダーに支持されていることを表していると解することが可能であると主張する。
もとより、特許請求の範囲に記載された語句を解釈するに当たつては、発明の詳細な説明及び願書添付の図面を参酌すべきであり、成立に争いのない甲第二号証及び甲第四号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明及び願書添付の図面には、右「回転でき」の記載は、工具が回転できるように液圧シリンダーに支持されていることを表しているものと解し得るような記載がないわけではない。しかしながら、語句の解釈は当該語句に即して合理的な範囲に限られるべきものであつて、前述のとおり、特許請求の範囲における「回転でき」の語が三本の液圧シリンダーに係つてそれを説明していることが動かし難い以上、これと矛盾する本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて特許請求の範囲の記載を原告ら主張のように解することはできない。
このようにして、三本の液圧シリンダーが回転できる構成であるとすると、本願第一九番目の項の液圧シリンダーがどのように作用するのか、その特許請求の範囲の記載からは全く解明できないと言わざるをえない。
したがつて、審決が、本願明細書の特許請求の範囲第一九番目の項について、液圧シリンダーが回転できるとはどのようなことか不明であつて、この点において特許法第三六条第四項(昭和六〇年法律第四一号改正前の特許法第三六条第五項)の要件を満たしていないと判断したことは正当であり、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の違法を理由に、その取消しを求める原告らの本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲第一九番目の項は左のとおりである。
歯車がそれを中心として回転するよう設計された回転軸を持つ歯つき歯車から表面欠陥を除去する装置であつて、歯車の歯と噛み合う三つの回転工具と、夫々が工具を支持している互いに離間して回転でき中間部分に噛み合い状態で歯車を受け入れる三本の液圧シリンダーとを有し、各シリンダーは孔部と該孔部内に受容される小形のピストンとから成つていてピストンを移動させるとシリンダーが伸縮して工具を互いに近づけ或いは遠ざけるよう構成されており、工具と噛み合いながら歯車の回転軸が位置している共通接合部に工具が近づき或いは遠ざかるような関係に各シリンダーが配置され互いに離間していて、工具は互いに一二〇度の角度をなして離間している歯車軸の半径に沿つて移動し、シリンダーの孔部に液圧流体を連続的に供給して流体が所定流速でピストンを通つて漏出するにつれてシリンダーを伸長させ工具の歯と歯車の歯との間に圧力を加える圧送手段を有し、工具が歯車と噛み合つて回転し歯車の歯の表面欠陥と係合すると各シリンダーによつて各シリンダーに組み合わされている工具は他の工具から独立して別個に外方に移動できて組み合わされている工具を外方に移動させて各ピストンを通る流体漏出を所定漏出速度以上に増大させ、歯車を噛合い係合状態で工具の間に移動させる移動自在のキヤリツジを持つキヤリヤと、歯車と噛み合いながら最初は工具を一方向に次いで他の方向に回転させて歯車と工具の歯の間に加えられる圧力によつて歯車の歯から表面欠陥を除去するとともにシリンダーによる工具の外方移動によつて回転軸を固定位置に保ちつつ回転している歯車を保持するように構成されていることを特徴とする装置。